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【タイトル】
タイムカプセル

==========ここから本編==========


1月中旬。
成人式が数日前に終わり、街はバレンタインの準備で忙しい。
その中を、僕は歩いている。10年前の約束のために。


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「もう10年経ったのか……。」


僕は静かに呟く。それは白く染まると、空に消えた。
賑わう街を抜け、遠い昔に卒業した中学校を通り過ぎ、目的の公園に辿り着く。
公園といっても、敷地は狭く、遊具はブランコだけ。
まったく手入れがされておらず、雑草が自由に育っている。

10年前、僕とケンタとユカの3人はこの公園にタイムカプセルを埋めた。


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きっかけは成人式の日。
中学で出会い、高校卒業まで一緒だった僕たち。
約2年ぶりの再会は大いに盛り上がった。

そんな中、ふとケンタがこう言い出した。

「10年後の俺たち……つまり30歳になった俺らに向けてタイムカプセルをやろう!」と。


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カバンから小さなスコップを取り出し地面を掘る。
埋めた時の記憶を辿りながら、少しずつ作業を進めた。

寒さに耐えながら掘ること5分。
カツンという音が聞こえた。

土を払うと、そこには懐かしい箱があった。
フタを開けて中身を確認すると、3通の封筒が確かにあった。

少し考えてから、ケンタの封筒を最初に開けた。


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『10年後の俺へ。
 お前の知ってる通り、俺は今美容師の専門学校に通ってる。
 そして、ついこの間就職先が決まった。
 今20歳の俺が30歳になった時どうなってるか、ズバリ予言してやる。

 超有名人だ。
 地元で名前が知られてる、なんて小さな話じゃねえ。
 日本で俺のことを知らねえ奴が居ねえってくらいに。
 そんでもって、俺の腕で変えてやるんだ。
 良い素材持ってるくせに、どうせ俺なんて私なんてって言ってる奴らを!
 かつて俺を救ってくれたあの兄ちゃんみたいにな!

 待ってろよ10年後の俺!』


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ケンタの力強い文字で書かれている。
アイツの読んでいる声が聞こえてきそうだ。

あれは高校2年の時。
ケンタが突然「勉強を教えてくれ」と言ってきた時は本当に驚いた。
しかし当時の成績は下から数えたほうが早かった。

今思うと、ほとんど毎日教えてた気がする。
でもそれが続いたのはケンタのやる気が本物だったからだと思う。

今はどこに居るんだろうか。
ケンタは日本中を飛び回っている。
数年前に雑誌で取り上げられて、一躍有名になったアイツは、
自分の信念を掲げ、いろんなところに出張に行っている。
次に会うときは、今より有名人かもしれない。


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箱の中にはユカと僕の封筒。
自分の封筒はやはり最後にしよう。
そう思い、ユカの封筒に手をかける。


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『10年後の私へ。
 えっと……昔からこういうの苦手なんだよね。
 私は今、保母さんになるために頑張ってる。
 あ、呼び方は保育士さんになったんだっけ。
 子供が好きだからって理由で目指した道。
 でも、学ぶうちに色々難しいんだなって知った。
 ……正直、結構迷ってる。
 10年後、私はどうしてるのかな。
 保育士になって子供たちと触れ合っているのかな。
 あるいは全然違う職業に就いてるのかな。
 どんな道に進むにしても、この手紙を見る頃幸せになってね。
 私も頑張るから。』


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ユカの丸っこくて小さい字で綴られている。
この手紙の内容は、半分正解といったところだろうか。

ユカは保育士として5年ほど働いてから、結婚を機に退職。
今は一児の母で、息子と奮闘する日々だという。
1ヶ月前に電話した時も「大変だよ」と言いつつ嬉しそうだった。
次に会うときは、きっと良い笑顔がみれるだろう。


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箱の中に残っているのは自分の入れた封筒だけ。
意を決して、封筒を開ける。


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『10年後の僕へ。
 君はケンタやユカと違って、これといった目標を持っていない。
 進学せず、喫茶店でアルバイトを続けている君が、10年後どうなっているのか想像も付かない。

 あの喫茶店で働き続けているのか。
 なにかの縁で別の仕事をしているのか。

 君がこの手紙を開くとき、小さくてもいい。
 目標をもっていることを願う。』


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この手紙を書いた時、中身はお互いに見せずに入れた。
でも、ケンタとユカはそれぞれの夢を書いただろうと思っていた。
けれど僕には、夢が無かった。

でも、予想外の縁はあった。

この封筒を埋めてから数年は喫茶店のアルバイトを続けていた。
そのお店には何人か常連のお客さんが居る。
そのうちの1人に、とあるボランティアの話を持ちかけられた。

それは、地元の家々を訪問するというもの。
最近は2世代、3世代で同じ家に住んでいる人が少ないので、
「つながり」を改めて意識しようという呼びかけだという。

この喫茶店には地元の人がよく来る。
その中で僕は働いている年数が長いので、
地元の人たちも覚えているらしい。
だから適役だろうと思い、声をかけたという。

正直、意外だった。

店長ならまだしも、いちアルバイトに過ぎない僕を
そんな風に捉えている人がいるなんて想像もしなかった。
僕は是非、と言ってボランティアに参加することにした。

ボランティアに行く時間は
喫茶店のアルバイトを休んでいるので、稼ぐ金額は減った。
けれど、訪問先の人たちと話すのは楽しいし、取りたい資格も出来た。
ボランティアとアルバイトの合間を縫って勉強を進めている。

10年前の僕。
夢の無かった君が、こうして目標を持って歩いている。
だから、心配要らないよ。


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「さて、約束の花火をあげよう」


季節はずれのロケット花火。
地面に土を盛り土台を作る。
周囲の安全を確認し、ロケット台に花火をセットする。
導火線に火を点けると、チリチリという音。
火薬に到達するとヒューという音とともに空に飛び、弾けた。


「全員揃わなくてもこれならカプセル開けたってわかるだろ!」とケンタが言った。


「そうだね……うん、きっと聞こえるね!」とユカが答えた。


「それじゃあ10年後に」と僕が言って、解散した。


今度3人で集まったら酒を飲もう。
僕らの今と未来を肴に。


完


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作者:日陰

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※この台本は予告なく改変、削除する可能性があります。

サイト掲載日:H25年9月22日

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